SUEMARR "Old Note"  ( 2005 - 2007 )

明治屋 2005/11/02





昔の綱島と白楽の町をよく知る老夫婦だった。
老夫婦と会話して盛り上がったのは久しぶりのことだった。
どんどん変わってしまう自分の町を諦め半分に嘆いてもいた。
何十年もやっている老舗の飲み屋さん。
今は駅のマーケットの2階でひっそりとやっている。
昔ながらの日本の家庭の味を知っている老夫婦の店。



綱島駅のマーケットの中に気づかれないように
ひっそりと2階へと上る入り口がある。
視線よりもかなり上の位置に気づかれないように
「2階飲食店街」という看板がある。
階段を上がるとそこは別世界。
下の賑やかなマーケットとは正反対の
人気もなく閑散とした狭い廊下が続き
片側だけに数件の飲み屋が並んでいる。
丸いパイプ椅子がずらりと置いてあるけど「立呑み屋」。
ピンクの妖しい看板に書かれたスナックの名前は「ピンク・レデー」。
数件シャッターが降りたままの飲み屋を通り過ぎたその先で
目に止まったのが「おでん」という文字。

ご一緒したのは今月めでたく結婚を控えている女友達のRRさん。
気心知れた友人であると同時に綱島の飲み屋にはかなり詳しい酒豪である。
最初どの店にするか迷いながらしばらく歩いたが、
RRさんが「よし、開拓しようか」と言ってまた駅に引き返した。
そして例の「2階飲食店街」へと足を踏み入れたのである。
結婚パーティーの打ち合わせ場所として選んだのが
この「おでん」の文字を掲げた居酒屋「明治屋」。
RRさんは前からあの「2階飲食店街」の入り口が気になっていたそうだ。

「よし入ってみよ」

ガラガラっと引き戸を開けて店に入ると客は誰もいなかった。
老夫婦が二人。カウンターの中にいた。
テーブルもあったがカウンターに腰かけた。
初めての店で気分をほぐしてくれたのがお通しの切り干し大根。
一口食べたとたんに「この店いいかも」と納得した。
けっこう外が寒かったので焼酎のお湯割りを頼んだ。
「濃くていい!」と更に納得。
薄い木片に書かれた品書きには一切価格が書いてなくてもあれこれ頼んだ。
ネタの大きいおでん(がんも、大根、ロールキャベツ、タケノコ)、
こはだの刺身、納豆の油揚包 等々…どれも文句なく美味しかった。
懐かしい味だった。

料理も酒も美味ければもちろん
老夫婦との会話も自然と花が咲いた。
旦那さんが「何だか音楽やってそうな顔してるねえ!」言うので
オレは「はい。地味に歌とギターをやってます。」と答えると
すかさずRRさんは老夫婦にオレがどんな歌を歌うのかを、
そして結婚パーティーでも歌うことを一生懸命説明してくれた。
(ありがとう)
老夫婦と書いているが、本当に若々しく楽しい夫婦だった。
とても70代とは思えなかった。50代でも通るはず。


手のかかった日本の家庭料理。
昔は当たり前だったはずの味。
変わらないで残っていてほしいものは沢山ある。

しばらくは綱島で呑むならまずはここ。
と決めた日だった。

(RRさん。今年は当たり年だね。宝くじかね。)




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