「私たちは彼のことを”吟遊詩人”って呼んでいるの」。
ある人はそう言って、私にSuemarrを紹介した。そこは
横浜の場末のバーだった。
 満身創痍の相棒、サンバー・クラシックに楽器を乗せ、
ひとり全国各地をさすらう日々。「ライブは客との距離
が近ければ近いほど気持ちがいい」と彼は笑った。とき
にはレモンサワーの入ったグラス片手に客のなかに混ざ
って、ときには小さな立ち飲み屋のカウンターに腰をか
けて屈託なく歌う。あつらえられたステージも煌びやか
なスポットライトも彼には必要ない。その佇まいはいつ
も清貧で無垢だ。
 だからSuemarrの音楽は、街角の酒場によく似合う。
酔客の喧騒さえ心地よい。彼の詠む歌が、奏でる言葉が、
弦から弾ける音が、グラスのなかで酒と一緒になって溶
け込んでいく。どこか遠くの街の酒場と人の匂いがした。
それを飲み干すと、そこはかとない侘しさにさえ、静か
な幸せを感じてゆける。なんとも平和な世界だ。



_____________________________成田 希 (星羊社編集長)